下痢ではない腹痛(胃痛)

下痢ではない腹痛とは

下痢を伴わない腹痛はよくある一般的な症状で、多くの場合は時間の経過とともに自然と治まります。しかし、時間がたっても症状が改善しない場合には、何らかの病気が関与している可能性があります。腹痛が続く場合や激しい痛みを繰り返している場合には、自己判断で放置せずに一度当院までご相談ください。

痛み止めを飲んで
胃痛・腹痛がひどくなった

一過性の腹痛や生理痛を起こした際に市販の痛み止めを使用することは問題ありませんが、使用後に胃痛や腹痛が悪化した場合には、すぐに使用を中止し、医療機関を受診するようにしましょう。このような場合には痛み止めの薬によって逆に胃腸を痛めている可能性があり、使用を継続するとかえって症状を悪化させる可能性があります。

腹痛には様々な症状があるため、自己判断は危険です

腹痛には様々な症状があるため、自己判断は危険です腹痛を起こす原因には様々なパターンがあり、どの臓器に異常があるのかを判断するためには適切に検査を行う必要があります。例えば、みぞおち痛を起こした場合、胃の異常が原因のこともあれば、急性虫垂炎や心筋梗塞などみぞおちから離れた部位で異常を起こしていることもあります。
気になる腹痛が続いている場合には、できるだけ早めに医療機関を受診するようにしましょう。

体性痛

体性痛とは、皮膚や筋肉、骨、内蔵表面にある膜(腹膜や胸膜など)などの体表の組織や臓器に何らかの異常が生じた際に発生する痛みのことです。体性痛の特徴としては、ズキンとした鋭い痛みで、痛みの場所がはっきりと分かる、体を動かしたり押したりすると痛みが強まるなどが挙げられます。多くの場合は切り傷や火傷、捻挫、打撲、骨折などが原因ですが、中には大腸憩室炎などの病気が原因のこともあります。
また、痛みの範囲が時間とともに広がっている場合には炎症箇所が広がっている可能性がありますので、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。

内臓痛

内臓痛とは、胃や大腸などの消化管の急激な拡張やけいれんしたような収縮などが原因で起こる腹痛です。痛みは周期的に現れやすく、痛み部位がはっきりしないという特徴があります。多くは腹痛とともに冷や汗や嘔気、下痢、便秘などの自律神経症状を伴います。主な原因は自律神経の乱れやウイルスや細菌による感染性腸炎などです。

関連痛

関連痛とは、障害部位とは違う場所に痛みを感じる状態です。主な原因は痛みの信号を脳が正しく受信できないためと考えられています。心筋梗塞の際に心臓ではなくみぞおち付近に痛みが出るのも関連痛の一例です。


下痢ではない腹痛の原因

下痢を伴わない腹痛が起きる原因には様々なパターンがありますが、最も多い原因は急激な気温の変化や過度なストレスなどによる自律神経の乱れです。また、暴飲暴食や脂分の多い偏った食事など食事習慣の乱れも原因となりやすいです。
その他では、胃や十二指腸、大腸といった消化器疾患が原因のケースもあります。腹痛とともに発熱や下痢、嘔吐を起こしている場合は、感染性胃腸炎や食中毒などが考えられ、突発的な激しい腹痛を起こした場合には、消化管穿孔などの可能性があります。このような症状がある場合には自己判断で処置しようとせず、速やかに医療機関を受診するようにしましょう。


下痢ではない腹痛で
考えられる病気

上腹部の腹痛

胃潰瘍

胃潰瘍とは、胃粘膜が傷ついた状態です。主な原因は、ピロリ菌感染や解熱鎮痛剤の使用(非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs))です。重症化すると胃粘膜の傷が深くなり、胃の壁に穴が空いてしまうケースもあります。空腹時や食後に痛みが強くなる特徴があり、みぞおち痛や左脇腹痛、背中痛として痛みを感じることもあります。

胃潰瘍

十二指腸潰瘍

十二指腸潰瘍とは、十二指腸の粘膜が傷ついた状態です。みぞおちのキリキリするような痛みや便が黒っぽくなる(タール便)といった症状が多く、痛みは空腹時や夜間、早朝に起こりやすいという特徴があります。

十二指腸潰瘍

胃炎

胃炎の主な原因はピロリ菌の感染や解熱鎮痛剤である非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)使用です。みぞおちの付近のチクチク・キリキリとした痛みが特徴です。放置すると胃粘膜の炎症が拡大し、傷が深くなり胃潰瘍へと進行することもあります。

胃炎

機能性ディスペプシア

機能性ディスペプシアとは、胃や十二指腸に器質的異常が見られないにもかかわらず、胃痛やみぞおち痛、腹部膨満感などの症状を引き起こす病気です。

機能性ディスペプシア

急性膵炎

急性膵炎とは、アルコールや胆石、脂質異常症などが原因となり、膵臓そのものや周囲の臓器が膵液によって消化されてしまい、激しい炎症を引き起こす病気です。主な症状は上腹部の激しい痛みや背部痛です。

胆嚢炎

胆嚢炎とは、胆のう結石や胆のう癌などにより胆嚢の出入口である胆のう頸部や胆のう管が塞がれ、胆のうの中の胆汁がうっ滞することにより起こる病気です。発熱や腹痛、吐き気、嘔吐、黄疸、背部痛などが主な症状です。胆嚢炎には急性胆嚢炎と慢性胆嚢炎の2種類があり、特に急性胆嚢炎の場合は激しい上腹部痛や背部痛を引き起こします。

下腹部の腹痛

過敏性腸症候群(IBS)

過敏性腸症候群とは、腸に器質的異常がないにも関わらず、腹痛や便秘、下痢などの症状を引き起こす病気です。ストレスや緊張、不安といった心理的要因や食事習慣の乱れなどが関与していると考えられています。

過敏性腸症候群

便秘

重度の便秘になると、腹部全体に張りや痛みを伴うようになります。また、長期間便秘を放置すると腸内に排出されない便が蓄積し、虚血性腸炎などの他の大腸の病気を引き起こす恐れもあるため注意が必要です。

便秘

腸閉塞

腸閉塞とは、腸が閉塞し、ガスや便が出せなくなる病気です。
原因としては、①腹部手術後の癒着や大腸がんなどが原因で物理的に腸が閉塞する場合と、②腸の運動障害で腸が麻痺してしまった場合の2パターンがあります。一般的にイレウスとも呼ばれていますが、正式には物理的に腸が閉塞してしまったものは「腸閉塞」、腸が麻痺して動かなくなってしまったものは「イレウス」と呼びます。

物理的に腸が閉塞する「腸閉塞」については、腹部手術後の癒着によって小腸が閉塞するケースが多いです。その他では、高齢者ではそけいヘルニアや大腿ヘルニアなどにより小腸がはまり込んでしまい、腸閉塞を起こすことがあります。また、気づかないうちに大腸がんが進行すると、がんにより大腸が閉塞してしまい大腸で腸閉塞が起こることもあります。ほかに大腸で起こる腸閉塞にはS状結腸捻転や糞便性などがあります。

腸が麻痺してしまう「イレウス」は、糖尿病やパーキンソン病などによる自律神経障害、薬の副作用、強皮症などのリウマチ性疾患(強皮症など)による腸蠕動障害などが原因で起こります。
主な症状は、嘔吐としぼられるような周期的な痛みです。排便や排ガスがなくなるもの特徴です。

炎症性腸疾患

炎症性腸疾患とは、腸が炎症を起こすことで持続する腹痛や下痢、発熱などの様々な症状を引き起こす病気です。主に潰瘍性大腸炎とクローン病があります。原因ははっきりとは分かってはいませんが、自己免疫が関連しているのはないかと言われています。潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜が炎症を起こした状態で、主な症状は長く続く腹痛、血便、下痢です。原因が分からない発熱(不明熱)の原因のこともあります。一方、クローン病は小腸・大腸を中心に消化管全体に炎症を起こします。主な症状は長く続く腹痛や下痢、体重減少、発熱などです。潰瘍性大腸炎とクローン病はいずれも国の指定難病です。

急性虫垂炎

急性虫垂炎とは一般的に盲腸と呼ばれている病気で、正式には虫垂が炎症を起こすことで発症します。糞便による虫垂口の閉塞などが原因となります。主な症状は、右下腹部痛です。初期症状はみぞおちの痛みのことがあり、「胃が痛い」と感じることも多いです。


下痢ではない腹痛の検査

下痢を伴わない腹痛を引き起こす原因は多岐に渡り、重篤な病気が関与している場合があります。また、痛みを感じる場所から離れた臓器が原因の場合もあります。自己判断で原因を特定することは難しいため、気になる症状がある場合にはできるだけ早めに医療機関を受診しましょう。

問診時に
お伝えいただきたいこと

下痢を伴わない腹痛の原因には様々なパターンがあるため、症状についてできるだけ詳しく医師に伝えることが大切です。
特に以下の項目について、分かる範囲でできるだけ詳しく伝えるようにしましょう。

  • 痛みを感じる場所
  • 痛みが現れた時期
  • キリキリ・ズキズキといった痛みの感覚
  • 空腹時・食後などの痛みが出るタイミングや食事メニューとの関連性の有無
  • 痛みが強まったり弱まったりするかどうか
  • 時間とともに痛みが悪化しているかどうか
  • 痛みを感じる場所の移動の有無
  • 痛みとともに発熱や下痢などの症状を伴っているか
  • 月経痛との関連性の有無
  • 妊娠の可能性の有無
  • 以前同じような症状を起こしたことがあるか

など

血液検査

血液検査では、主に炎症の程度や貧血・さまざまな臓器に異常がないか調べることができます。

胃カメラ検査
(胃内視鏡検査)

胃カメラ検査では、主に胃や十二指腸粘膜の炎症の有無や程度、出血・潰瘍の有無などについて直接確認することができます。鎮痛薬と炎症との関連性についても調べることが可能です。

胃カメラ検査

大腸カメラ検査
(大腸内視鏡検査)

大腸カメラ検査(大腸内視鏡検査)痛みの原因が腸炎や過敏性腸症候群、大腸がん、潰瘍性大腸炎、クローン病などの大腸疾患である可能性がある場合には、大腸カメラ検査を行い、大腸粘膜の状態を詳しく調べます。
なお、当院の大腸カメラ検査では鎮静剤を使用しており、患者さんの年齢や体格に応じて鎮静剤の種類や量を細かく調整しているため、患者さんは眠っているようなリラックスした状態で検査を受けることが可能です。

大腸カメラ検査

腹部超音波検査

超音波検査とは、腹部に超音波をあて、肝臓や胆のう、すい臓などの臓器の状態を調べることができる画像検査です。主に腹痛の原因が胃腸以外の部位にありそうな場合に行います。


下痢ではない腹痛の治療

下痢ではない腹痛の治療下痢を伴わない腹痛がある場合には、各種検査によって痛みを起こしている原因疾患を特定し、その病気の治療を行う重要です。また、原因が病気ではなく暴飲暴食や偏った食事習慣、刺激物の過剰摂取といった食事習慣の乱れである場合には、生活習慣の改善指導を行い、症状の改善を図ります。
いずれにしても、下痢を伴わない腹痛の原因を自己判断で特定することは困難なため、気になる症状が続いている場合には速やかに医療機関を受診することが大切です。

胃痛のときに
痛み止めを飲んだらダメ?

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は解熱剤や鎮痛剤として広く使用されています。代表的な非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)として、ロキソニン、アスピリン、ボルタレン、イブプロフェンなどがあり、薬の成分で胃や十二指腸の粘膜が障害され、胃痛などの痛みを引き起こすことがあります。

アセトアミノフェン
(カロナールなど)

アセトアミノフェンとは解熱鎮痛薬の一つで、発熱や頭痛、生理痛などの痛みを和らげる効果があります。安全性の高い薬です。ただし、一度に過剰摂取をすると、胃腸を痛め、胃痛などの症状を引き起こすことがあります。