ピロリ菌とは
ピロリ菌(正式名称はヘリコバクター・ピロリ)はヒトの胃の粘膜に生息するらせん状の細菌です。胃の中は胃酸により強い酸性になっていますので、通常の細菌は生息ができませんが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を出して胃酸を中和することで胃の中でも生息できるようになっています。
どのようにしてピロリ菌が感染するのかは明確には解明されていませんが、口から入ってくる経口感染が主な感染経路と考えられています。乳幼児期の衛生環境がピロリ菌の感染に関係していると考えられており、上下水道が十分に整備されていなかった世代の方に感染率が高いことが知られています。
ピロリ菌除菌治療の対象
日本ではピロリ菌感染者数は約3,500万人と推定されており、多くは無症状です。
日本ヘリコバクター学会の最新のガイドラインでは、胃がんや胃潰瘍・十二指腸潰瘍を代表とするピロリ菌が関連する疾患を予防する目的で、ピロリ菌に感染している全ての方で除菌療法を行うことが勧められています。
除菌治療の対象
- 内視鏡検査(胃カメラ検査)でヘリコバクター・ピロリ感染胃炎と診断された方
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍の方
- 早期胃がんの内視鏡的治療後の方
- 胃MALTリンパ腫の方
- 特発性血小板減少性紫斑病の方
上記5項目に該当する患者さんです。
特に、ピロリ菌の除菌は胃がんの発症予防にとても有効です。現在ピロリ菌に感染している方の胃がんの発症リスクは、もともとピロリ菌がいない方の20倍以上とされています。ピロリ菌を除菌した場合、胃がんの発症リスクが約50%まで低下します。
ピロリ菌を除菌した場合、胃がんの発症リスクは下がりますが、ゼロにはなりませんので、除菌後も1年に1回の内視鏡検査(胃カメラ)をお勧めします。
ピロリ菌の検査
ピロリ菌の検査には大きく分けて、①内視鏡を使う方法と、②内視鏡を使わない方法があります。
内視鏡を使う方法
(胃カメラ検査)
迅速ウレアーゼ試験
ピロリ菌が持っている尿素を分解する酵素(ウレアーゼ)の活性を利用して調べる方法です。胃の粘膜の一部を採取し、特殊な反応液を付着させ、反応液の色の変化でピロリ菌の感染の有無を調べます。
組織鏡検査
胃粘膜の一部を採取し、顕微鏡でピロリ菌の有無を調べます。
培養法
胃粘膜の一部を採取し、ピロリ菌が発育しやすい環境下で5~7日培養し、ピロリ菌の有無を調べます。
内視鏡を使用しない検査
尿素呼気試験
検査薬(13C-尿素)を服用して頂き、服用前後に呼気を採取します。採取した呼気中に含まれる、ピロリ菌のウレアーゼによって産生される二酸化炭素(13CO2)の量を測定することによって、ピロリ菌の有無を調べます。
抗体測定検査
ピロリ菌に感染すると、体内でピロリ菌に対する抗体が作られます。血液や尿の抗体を測定し、ピロリ菌の有無を調べます。
糞便中抗原検査
便中のピロリ菌抗原の有無を調べる方法です。
※ピロリ菌の検査は1つの方法だけでは検査の精度が低いことがありますので、疑わしい場合は複数の検査を組み合わせて診断することがあります。
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌の除菌方法
ピロリ菌の除菌療法は、胃酸の分泌を抑える薬が1種類+抗菌薬2種類の3つの薬が用いられます。この3種類の薬を同時に1日2回、7日間に服用します。
副作用は時々下痢症状や味覚障害などが起こることがあります。
除菌の薬を飲み終えた約2か月後に、ピロリ菌が除菌できたかどうかを確認するために、尿素呼気試験を行います。
ピロリ菌の除菌の成功率
きちんと正しく薬を服用することができれば、最初の除菌治療での成功率は約90%です。
1回目の除菌治療(一次除菌)でピロリ菌の除菌に失敗した場合、1回目に使用した2種類の抗菌薬のうち1種類を変更し、再度除菌治療を行います(二次除菌)。
一次除菌で除菌できなかった場合であっても、適切に二次除菌療法を行えば、ほとんどのケースで除菌に成功します。
ピロリ菌の除菌治療の注意点
以下に該当する方は、必ず事前に医師にお知らせください。
- 抗菌薬や風邪薬などの薬で副作用やアレルギー症状や副作用を起こしたことがある。
- ペニシリンなどの抗菌薬で副作用やアレルギー症状を起こしたことがある。
ピロリ菌の除菌を成功させるためには、3種類の除菌の薬を1日2回、7日間継続して服用することが大切です。自己判断で薬の服用を中止してしまうと、治療薬に耐性のあるピロリ菌に変化し、薬が効かなくなることがあります。
また、除菌療法中は喫煙・飲酒は避けてください。喫煙・飲酒は薬の効果を低下させる原因になります。
ピロリ菌の除菌療法中の
注意点(副作用)
下痢、味覚障害、口内炎、発疹などがあります。
軽い症状(軟便、軽い下痢、軽い味覚障害)が現れた場合
自己判断で薬を中断したり、減らしたりせずに、薬をきちんと7日分まで飲み切ってください。ただし、症状が悪化した場合は、すぐに医師にご相談ください。
重い症状(発熱や腹痛を伴う下痢、粘膜や血液を含む下痢、発疹)が現れた場合
直ちに薬の服用を中止し、すぐに医師に相談してください。
その他、気になる症状がある場合には、お気軽に医師にご相談ください
ピロリ菌のよくある質問
ピロリ菌の除菌はしない方が良い?除菌すると胃が荒れる?
ピロリ菌除菌により、胃がんの発生率を低下させることができるため、基本的に除菌することを推奨しています。
一方、「除菌しない方が良い」と言われる理由もいくつかあります。除菌後に一時的に胃の不調や荒れが起こることがあり、抗生物質による腸内環境の乱れや副作用を心配する声もあります。 しかし、こうした症状の多くは一時的で、数日〜数週間で改善することがほとんどです。 また、整腸剤を併用したり、医師の指示に従って服薬すれば、多くの場合は大きな問題なく治療を終えられます。
当院では、年齢・体調・胃の状態などを踏まえたうえで、除菌治療の必要性やタイミングについて医師が個別にご説明・ご提案いたします。 副作用や不安点がある場合も、丁寧にご相談をお受けしています。
ヨーグルトがピロリ菌を殺す?
ピロリ菌は胃酸の中でも生き抜く強い菌であるため、食べ物だけで完全に除菌することはできません。一方で、「LG21乳酸菌」や「ビフィズス菌」、「ラクトバチルス・ガセリ菌」を含むヨーグルトなどの食品には、ピロリ菌の増殖を抑えたり、胃の環境を整える作用があることが分かっています。 しかしながら、食事での補助は治療をサポートする役割と考えてください。 ピロリ菌の完全除菌は抗菌薬を用いた医師の指導による治療が必要です。ピロリ菌検査・治療はお早めにご相談ください。
ピロリ菌の検査はカメラなしできる?
ピロリ菌の検査は内視鏡(カメラ)を使わなくても行うことが可能です。 当院では、尿素呼気試験、血液や尿の抗体測定、便中抗原検査など、体に負担の少ない方法でピロリ菌の有無を調べることができます。これらの検査は日常生活に支障なく、お気軽に受けていただけますかと思います。 胸焼けや胃もたれ、胃のキリキリなど、気になる症状がある方はお気軽にご相談ください。
ピロリ菌の検査・除菌は何科に行けばいいの?
ピロリ菌の検査や除菌は、内科や消化器内科で受けていただくことができます。 当院は総合内科として、消化器の症状だけでなく、生活習慣や全身の健康状態も含めて幅広く診察しています。ピロリ菌は胃炎や胃潰瘍だけでなく、貧血や栄養吸収への影響、生活習慣病との関連も指摘されています。 当院では、全身の健康状態や症状を幅広い視点で丁寧に評価し、最適な検査や治療をご提案します。気になる症状は、どんなことでもお気軽にご相談ください。
ピロリ菌に感染している人の特徴は?
日本ではピロリ菌感染者数は約3,500万人と推定されており、多くは無症状ですが、一部の方には胃もたれ・早期の満腹感・腹部の張り・みぞおち痛が現れることがあります。 胃の不調は放置せずに、早めにご相談ください。

